アイゲリ!

コラム08
『My Generation』発売記念インタビュー


「シューヘー通信」31号(2003年1月)より抜粋


集平 ぼくは絵本作家なんで、アルバム1枚をどういうふうに順序立てて構成していくかは専門なので存分にやらせてもらいました。ビジュアル面も写真や絵をこれまでよりたくさん使ってる。解説と音とビジュアル面、3つが全部関係しながら表現になってる。解読してくれる人がいれば情報量の多さに驚くでしょう。

クン 集平が考察してきたキリシタン史になってる。

集平 『見えない絵本』が長崎を取りあげた初めの作品かな。まだ出せてない子どものための小説があって、笛吹きが主人公なんだ。その物語を書きながら考えてきたことも今度のアルバムに入ってる。
 「定点観測」と言ってるんだけど、長崎から日本や世界を眺め、長崎の内側を覗きながら考えてきたことの、直径12センチの報告書を作ったということになるんじゃないかと思う。

(中略)

集平 これまでティン・ホイッスルを使ったいろんなアルバムを聴いてきて不満だったのは、これ見よがしにテクニックを見せつける作品が多いこと。楽器自体が安物で見下されてるところがあるからか、こんな楽器でもここまで吹けるんだよって、逆に力みが入って肩の凝る作品が多い。もうひとつ、ティン・ホイッスルといえば100年前はC管のブリキ笛が普及品だったのが、今はD管が基本になってる。B♭、E♭、F、Gなどの笛が出て、最近ではロー・ホイッスルという1オクターブ低い尺八みたいな音のフルートと同じ音域のホイッスルなんかが好まれてるね。こういう楽器を使いこなして、1枚のアルバムの中で音色のバリエーションを聴かせる、これまたティン・ホイッスルはそんな単純なものじゃないよと言いたいばかりに、お店広げてるようなことになっちゃってる。
 ぼくはティン・ホイッスルという楽器に本当に惚れたんですよ。(坂本九の)「エンピツが一本」の歌のように、ホイッスルが1本あれば、他に何も人生にいらないんじゃないかって思ってる。だから、これ1本で全篇通したかった。我慢のいることだけどね。

 録音に当たっては、立派な機械を使ってリッチな音に録るよりも、なるべくそのままの音を生々しく録った方がいいだろうと思った。使ったのは簡単なデジタルレコーダー、パンドラPXR4。3万円台くらいで買えた。これまでシューヘーのアルバムをおもに録音してきたのは4チャンネルのカセットレコーダーで、あれも最低限の道具だったんだけど、そのデジタル版です。笛1本だからモノラルの1トラックで録音。マイクもいろいろ試してみて、内蔵マイクが一番クセのない音で録れたんで、それで全曲録音したのよ。

クン へぇー。

集平 録音ボタンをぷちっと押して、ただ笛を吹いただけ。

クン じゃあ昔の、カセットデッキを買ったときに、その前で歌を歌って録音した喜びそのままだね。

集平 そう。あの感じ。で、データをiMacで編集。これも1万円台で買える「Sound it!」というシンプルなソフト。普通はリミッターで音を圧縮して音圧を出したり、イコライジングで音色をいじったりいろいろやるけど、今回はリバーブかけて軽く空間感を出しただけです。加工のきつい音に慣れてる人には耳ざわりが良くないかもね。
 デジタルの魔法で、ミスったとこなんかを写真でもコンピュータで簡単に修正できるでしょ? あれと同じように音も修整できちゃうんだよ。あんまりやりすぎるとのっぺりした白塗りの暗黒舞踏みたいになっちゃうんで、最小限の手直しだけやって、最後に空間感を出した。「ブラックサバス」から始まるメドレーと「聖霊の続唱」っていう教会音楽の2曲だけ、ちょっと広い「小ホーム」、他は全部同じ「小ルーム」というリバーブをうすめにかけただけです。
 最初のテイクがよかった数曲以外は、納得行くまで何十回も繰り返して吹いた。それでも気に入らなくて別の日に録り直したり。だから今この通りに吹けと言われても、何十回に1回くらいしかうまく吹けません。人前で吹けるように、これから練習しなきゃね。

 ホイッスルの録音をいろいろ聴いてみて、やっぱり1番好きなのは、ぼくと同じジェネレーションの安物の笛を使ってた故マイコー・ラッセルの、ライブやスタジオで吹いたのをあまり色づけなしにレコード化したやつ。ぼくのはそれをイメージした現代風。マイコーの頃の録音は真空管の機材や、レトロなマイクを通した、非常にいい感じの甘い音に録れてる。ライカのカメラで撮って紙焼きした写真のような味があるね。ぼくの今回のはもうちょっとリアルな、デジカメで撮ってメールに添付した画像のような録音だね。実際スマートメディアに記録するのよ。信じられないよ。あんなものに全曲入っちゃうんだから。テープもディスクも使わない。デジタルで録音し、そのデータをコンピュータに転送してデジタル編集しちゃうわけだから、アナログの部分は演奏だけなんだよ。その他は全部、CD-Rに焼き付けるとこまでデジタルですよ。

(中略)

── 曲について

集平 アイルランド音楽の面白いとこのひとつが、その場その場でメドレーを組み立ててくことなんだ。

クン 1曲じゃなくてモンタージュされる。

集平 うん。アイルランドの伝承音楽、特にダンスミュージックは短くて、1〜2分くらいで終わっちゃう。演奏曲として長いものにしたい欲求があるし、変化を求めたい。普通はジグだったらジグを2〜3曲メドレーにするけど、リールの次にジグをやって、ポルカをやってということもある。複数の曲を組み合わせて、ひとつの演目にする。

 もうひとつの特徴は1つの曲がいろんなタイトルを持ってること。曲が勝手に一人歩きして、演奏する人が曲のタイトルをその都度つけたり。たとえばマックローさんに教わった曲だというので、本来の曲名を忘れて「マックローのリール」なんて名前になったりすることもある。その題名をセレクトしてモンタージュできるな、と。そうするともともとの1曲1曲の意味と別の次元の意味が出てくる。これは伝承音楽では邪道かもしれないけど、あえてやってみました。

──以下、曲順にしたがって──

1. Atholl Highlanders, Out On The Ocean (Jigs)
  アトール・ハイランダーズ、外洋に出て


集平  1曲目はジグを組み合わせました。アイルランドで普及してるダンス・ミュージックにジグとリールがあって、ジグはタタタ、タタタ、という3連符の曲。リールは8ビートね。タタタタ、タタタタ。アイルランド人でも好みが別れるらしいんだけど、ジグの方がリズムとしては古い。リールから始めるアルバムが多いんだけど、ぼくはどうしても1曲目はジグから入りたかった。

「Atholl Highlanders」とはスコットランドの義勇軍の名前らしい。戦場を鼓舞するバグパイプの音楽がもとになってる。この曲はフェアポート・コンベンションのデーブ・スワブリックの2ndソロ・アルバム冒頭に入ってた曲で、ぼくがこのテの音楽を初めて聴いたアルバムなんだ。だからこれを1曲目にもってきたかった。
 大航海時代にポルトガル人が日本にやってきたとき、黒船には何十、何百の下級船員が乗ってた。歴史に書かれてるのはほんの一握りの上層の人たち。聖書と祈祷書を読みながら、それとも算盤をはじきながらやってきた人たち。船を動かしてきた人たちのことはほとんど書かれない。低賃金で雇われたそういう人たちこそが、この国にいろんな音楽や遊びや庶民の文化を伝えたはずなんだよ。厳しい弾圧の中ですべて失われているけれど、想像するところから始めた……

(中略)

集平 本でも読みながら、お茶でも飲みながら気楽に聴いてもらえたらいいんじゃないかな。これを聴いて自分もティン・ホイッスルを吹いてみようと思う人が出ればいいね。笛1本あることで人生が楽しくなる、音楽をもっと身近なものにしよう、もういっぺん取り戻そうというのがぼくのメッセージです。演奏しなくても聴くだけでもいいから、とにかく音楽は簡単で愉快なもんでいいんだというのが伝わればいいな。

クン Add Some Music To Your Day(人生に音楽をちょっぴりつけ加えよう)ですね。

五島・嵯峨島で。2001年8月9日


『My Generation』のラベル。「南蛮屏風」より。左上、船の赤い旗にシューヘー・ガレージのマークが。


『My Generation』裏ジャケット。自画像「Whistling Old Shu」を使用。


パンドラPXR4と、ちょいと大きめな切手サイズのスマート・メディア。


マイコー・ラッセル『The Limestone Rock』同じジェネレーションなのにマイコーが吹くとなんで泣けるんだろう。


大村純忠史跡公園で。


『Saint Patrick Was A Cajun』L.E. マックロー。この人のジェネレーションの音色もまた個性的。全曲オリジナル2枚組CD。


『SUNFLOWER』ビーチボーイズ。「Add Some Music To Your Day」が入ってるよ。

(全部読みたい人は通信を申し込んでね


●ライブでティン・ホイッスルを吹く。2002年3月24日 滋賀県能登川町




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