ミセバヤ

「日毎の薬味」その13


 ある年のお盆、帰省先の姫路でのこと。蚊に刺されると義母が小さな庭先から葉っぱをちぎってくれました。小柄で丸顔の母から渡される小さなまあるい葉っぱ。擦り込むと緑色の水っぽい果肉がひんやりとして痒みを鎮めてくれる、そんな草、知りませんでした。
 長崎に移ってから、どうしても欲しくなってあちこち探し回りました。数年前の暑い日のこと「ミセバヤって言うんだって。大浦の花屋さんが、売り物ではないからと、ただで譲ってくれたよ」と主人が下げて帰ってきました。
 ちょっと変わったその名は、秋に咲く可憐な美しい花を「見せたい」という意味で、高野山の法師が作った和歌に由来してるそうです。日本の原産種で別名「たまのお」、19世紀後半シーボルトによってヨーロッパに広まったので「シーボルトのベンケイソウ」とも。
 母が逝って初めての夏、ベランダで元気に育つミセバヤにふと母の面影を映してしまいます。




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