アイゲリ!

コラム02
「シューヘー通信」21号(2000年6月)

インタビュー「R&R SEMINARIO +6(世界の音楽)」

SEMINARIO TEXTS オススメのCDと本

機材自在14 ティン・ホイッスル ウォルトン製 メロウD





インタビュー「R&R SEMINARIO +6(世界の音楽)」 より抜粋

集平 アイルランド音楽を聴いて目の鱗が剥がれるような体験を何度もしてるんだけど、少なくとも言えるのはアイルランド音楽はレコード産業がなくても成立してるってこと。
 おもしろいのは、他の音楽と融合してどんどん変貌しているアイルランド音楽が片方にあって、もう片方には代々受け継いできた音楽を頑固にやってる人たちがいる。その両方が現役だっていうのは珍しいよね。そしてこのふたつのはるか先にロックがあるのは確かなんだ。

 チーフテンズが積極的にやってるのは、あちこちに移民をしてきたアイルランド人が、移民した先々の音楽と融合していった道を辿る、欠落しているところは想像力で埋める。代表的なのが『サンティアーゴ』というCD。これはアイルランドとスペインが古くから交流があったっていうとこから物語が始まる。スペインのケルト系の人たちがやってる音楽の中に、色濃くアイルランド音楽の要素が残ってるわけだ。さらに大航海時代にはスペインから中南米へと交流があった。メキシコ音楽なんかにもそういう要素が入ってる。ライ・クーダーやリンダ・ロンシュタットが参加して、氾アイルランド的な音楽を聴かせてくれるんだけど、これはすごく刺激的な仕事だった。そういう角度から光を当てて世界の音楽を見回してみると、音楽が交流によって、互いに影響しあって今の形に至ってるのがよくわかる。チーフテンズのその仕事はもちろん仮説だし、いわばコンチキ号が実験漂流したみたいな仮説には違いないけど、かなりの真実味はある。

 それでぼくは前回の話の中で長崎のわらべ唄「でんでらりゅう」には、キリシタン時代に向こうから伝わってきた音楽の影響が残ってるんじゃないかって言ったんだ。古代から世界中の人は行ったり来たりしてる。行ったり来たりの中でこぼれた種が、その所々に音楽だけじゃなくて、いろんな事物を残してきてるんだと思う。

(中略)

『ライアンの娘』っていう映画でおもしろかったのは、教養のある人間、特にイギリス人をアイリッシュのガラの悪い連中が「スノッブ!」ってバカにするでしょ。彼らは教養を警戒してる。音楽でもやたらテクニカルになったり、人を出し抜くような手段に出るようなものは嫌うよね。そうやって優しい音楽を守ってきたんだと思う。
 ぼくはアイリッシュ音楽のそういうところに惹かれてるんだ。彼らがミュージシャンを褒めるときに「グレート・キャラクター」という。「あいつはすごい人間だ」っていうのが一番の褒め言葉だっていうんだ。アイルランド人が音楽の中の何を大事にしてきたかをわからせる話だね。そういう音楽の愛し方があるんだって知って、感動したよ。



SEMINARIO TEXTS オススメのCDと本


アイルランド音楽への招待  キアラン・カーソン著 守安功 訳 (音楽之友社)

あくの強い本だけど、アイルランド音楽の本質が書かれた本だと思う。今日話したアイルランド音楽を聴くときのマナーなんかも書かれてる。このなかなか頑固オヤジは詩人でミュージシャン。

「一度読めば、ああそうか、よくわかった、と理解したつもりになる。ところがひっかかっていたある箇所を読み返してみると、また違ったものが見えてくる。あれ、これは何だと思って他のところも読み返してみる。そうすると今度は、また違った響きが聴こえてくる──」著者の発言より。


サンティアーゴ The CHIEFTAINS

ダイナミックな音楽の交流の歴史をすぐれた演奏で提案したもの。だいたいそういう試みっていうのは音楽自体がおもしろくなくなったり死んだみたいなものになりがちなんだけど、この音楽はほんとに生き生きとして魅力的な音楽で、説得力がある。

アイルランドと同じケルト文化が色濃く残るスペイン・ガリシア地方の音楽を取り上げたチーフテンズの意欲作。バスクやアストゥーリアスといった周辺地域の音楽や中世の聖歌を吸収し、さらにガリシアから数多くの人が移民した中南米へと音楽の旅は続く。ゲスト多彩。



機材自在14

ティン・ホイッスル ウォルトン製 メロウD




 こんなオモチャみたいな笛で? とだれもが思う。アイルランド音楽をハスキーに彩る哀愁の音色の正体がこれだ。指穴が6つ開いただけの縦笛。900円ぐらいで買える。
 ティンはブリキ、ホイッスルは笛。原型は古代にまで遡る。骨製や木管を経て、19世紀に大量生産で普及したのが英クラーク社の円錐形のC管ブリキ笛だった。味わい深い歌と演奏で世界中の人を魅了した故マイコー・ラッセルが子どもの時に父親に買ってもらったのが、クラークのホイッスルだったそうだ。彼が英ジェネレーション製のC管をよく吹くのは、小さいころに吹きまくったC管の響きがしみついているからかもしれない。
 今はブラス管にプラスチックの頭部をはめたものが多い。単にホイッスルと呼ばれるようになってきた。いろんな調子が出ているが、伝統音楽でよく使うのはD管だ。イーリアンパイプや他の楽器との相性が良い。このウォルトンというのは、アイルランド人待望の自国生産品。
 ペニー・ホイッスルという別名の由来は、1ペニーで売ってたからとか、笛吹きに1ペニー払っていたからとか言われる。ホイッスルは、蔑まれ侮られてきたアイルランド人と同じように扱われてきた。みにくいアヒルの子のようなその笛が、すぐれた奏者に息を吹き込まれたとたん、空高く舞い上がる。
 この安物の、威張ったところのこれっぽっちもない笛には、音楽の神秘が宿っている。

写真●クン・チャン


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