『すいみんぶそく』

1996年 童心社 B5
2016年復刊

「ぼくが殺したムエタイキッドはリセットボタンで生きかえる。だけど、おじいちゃんは霊柩車に乗せられて行ったきり帰ってこなかった。ぼくらはみんな、ああやって行ったきりになるんだろうか。おじいちゃんのいない家。ぼくのいない世界……」
ケンタロウが睡眠不足になったそのワケは? 生死や愛について悩み考える少年の姿を、生々しく描いた傑作。


純なラブストーリーをどうぞ 長谷川集平 「母の広場」(童心の会)1996年3月号より

 小学校1、2年のころだったろうか、ぼくは自分が死ぬということがどういうことなのか、すごく気になってこわくてねむれない夜をいく晩もすごした。手を見ては、この手が風呂上がりにそうなるようにしわしわになって年老いていくさまを想像した。手はやがて枯れ、動かなくなり、燃やされるだろう。
 そもそも生まれる前、ぼくはどこにいたのだろう。背後に横たわる底知れない闇、死ねばまたそこに帰っていくのだろうか。悩みを打ち明けることもできないまま、睡眠不足の日々が過ぎていった。
 子どもたちは健康ならば、いずれ死の恐怖にとらわれる時期を迎えるはずだ。それはナルシシズムの芽生えであり、自己の発見であり、愛しい自分を失うことへの恐れだと考えることもできるだろう。
 やがてだれかを好きになって、その人を失うかもしれないという、しちゃいけないはずの夢想にとらわれてうしろめたくなってしまうことがあるが、その時こそ自己愛を他者への愛に置き換えているのだ。彼はこうしておとなになっていく。
 ぼくの好きな破滅型ロックンローラー、ジョニー・サンダースがよく「ボーン・ツー・ルーズ(失うために生まれたのさ)」とスピードをあげて歌っていたけど、あれは言い換えれば「愛するために生まれたのさ」ということだったかもしれない。愛と死はあたりまえのように隣り合っている。一粒の麦は落ちるべきだ、と言う聖書は何も献身的に善行をおこないなさいとしかめっ面で教えているのではなく、あそこで「ボーン・ツー・ルーズ」というロックンロールをイエスが軽やかに歌っているのだと思えてならない。
 ぼくの絵本はこれまでもずっとラブストーリーだったけど、今回の『すいみんぶそく』が一番「純」かもしれない。読者の深いところに届いてくれたらと願う。


『すいみんぶそく』出版(長崎新聞 1996.3.13)

 絵本作家の長谷川集平さんはこのほど、新作絵本『すいみんぶそく』を出版した。『はせがわくんきらいや』でデビューして以来、絵本作家として20年目の区切りとなる作品。(中略)
 長谷川さんは「現代の子どもが深層に抱える悩み、闇を普遍的に描いた」と話す。全編を通じ流れる重い雰囲気は印象的だが、余韻を残すラストが救いとなっている。私たち大人にも何かを考えさせ、感じさせるのはさすがだ。
「自分なりの絵本作りの方法論など、20年間考えたことの集大成となる作品。『大人にも読んで欲しい』というより、『子どもにもわかるように』と考えた」と長谷川さん。独特の視点と手法で、子どもたちに寄り添った温かみのある作品に仕上がっている。


「東洋の目で描かれた絵本の世界」 ジェーン・ドーナン(絵本評論家)
 「日本絵本原画展 イン・イングランド」の日本語版パンフレットより抜粋

……独創的な絵という点では、物語絵本のなかで最も印象に残るのは、長谷川集平の『すいみんぶそく』だろう。これはポストモダンの絵本であり、年齢の高い読者向けである。青の水彩ペン、のたうつような絵の具の使い方、透明な色彩、こういうものが織りなす世界で、ファインアートとコミックアートの技法がうまく溶けあっている。登場人物は抽象的なイメージのようなものとして描かれる。思春期の子どもたちが死や性に関して抱いている錯綜した不安を、長谷川はうまく形として表現している。年若いヒーローのケンタロウは、すいみんぶそくだ。ケンタロウの日常生活は、なんとかふつうに営まれている。しかし妄想の超現実のなかでは(つまり眠っているときと起きているときの中間の状態では)、ケンタロウの吐く息は樹木をゆらし、ガールフレンドを炎に包んで歩かせる。さらに吸う息で、燃えている彼女を開いた口に飲みこんでしまう。幸いにも翌日、彼女はちゃんと生きていたが、ケンタロウと同じように不眠症になっていた。これは愛についての本? それとも命は限られているということ? 結末は読者にゆだねらている。……

日本絵本原画展 in イングランド報告

2001年5月から11月までイギリス3ヶ所で開催された初の日本絵本原画展が好評のうちに終わり、長い旅に出ていた『すいみんぶそく』の原画6点も日本に戻ってきました。 三宅興子さん正置友子さんをはじめ、実行委員の方々の熱意と働きかけによって実現したこのイベントは、絵本を窓口に今までと違った角度から日本の文化を広く紹介する画期的なものとなりました。

写真は実行委員会からいただいたものです。
左上・原画展専用の道路標識
右上・国立劇場ギャラリー。『すいみんぶそく』展示風景
左下・同ギャラリーの様子
右下・ニューキャッスル大学 ハットンギャラリー。子どものためのイベントが数多く行われました


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