およぐひと

そのひとは ながれにさからって およいでいた。
集平が絵本作家として描く3.11。


解放出版社(えるくらぶ)・B5・2013


東日本大震災は 終わっていない
失ったものの大きさに慄然とする
報道をはじめ私たち大人は 何をしただろう
何ができるのだろう
自宅に戻りたい人 遠くに行かざるをえない人
私たちは何を求めているのか
子どもに語る「3.11」
心の奥深くに鋭く問いかける長谷川集平の絵本世界
   ---出版社チラシより



チラシ・プリント用データ(jpg画像・324KB)


「インターネットで見てると震災のことを歌った歌なんかもあるけども、過激なメッセージを込めたものとか、情に訴えるみたいなものが多いんですね。あるいは単純な脱原発を歌ったり。そうじゃない、ぼくらの日常がああいうことが起きたときにどう動揺するのか、心はどういうふうに動くのかというところをきちっと記録しておきたいと思います──集平」 ●2月4日(月)FM長崎「Spicy voxxx」より


新聞掲載記事 ……画像をクリックしてください。

西日本新聞 2013年5月11日(土)
子どもに伝える震災の喪失と鎮魂
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長崎新聞 2013年5月17日(土)
東日本大震災を題材
(GIF画像・140KB)



「シューヘー通信」72号(2013年4月発行)
『およぐひと』出版記念インタビューより抜粋


'13年3月12日 シューヘー・ガレージで
集平 =長谷川集平/Guitar Vocal
クン =クン・チャン/Cello Vocal


── 『およぐひと』出版直前です。
クン おめでとう!
集平 数々の困難を乗り越え、出版に至りました。最近のぼくは絵本を一緒に作れる編集者が一人もいない状態だったからね。理論社はおととし倒産して新体制になって、増刷されてもその分の印税をもらえない仕組みになった。売れた分だけ半年に1回清算するというけど、あってないようなものでね。絵本を出す意欲が削げる。ポプラ社は『大きな大きな船』の編集者があれ1冊でやめてしまい、『小さなよっつの雪だるま』で組んだ嘱託のベテラン編集者Mさんはあまりに非協力的。文研出版で『あしたは月よう日』『トリゴラスの逆襲』を作ったHさんは退職。そんな状況でも3.11からずっと、絵本を描かなきゃいけないと思ってた。

 3.11を体験したぼくらが普遍的な表現を見出すのは難しい。たとえば京都のバンド、フライングダッチマンの「ヒューマン・エラー」というネットで絶賛された歌は、20分近い東電や政治をこき下ろすアジテーション。斉藤和義って人の自作の替え歌「ずっとウソだった」はこれまで聞いたことは全部ウソだったという内容。どちらも自分を正義にしてる。高田渡の「自衛隊に入ろう」を「東電に入ろう」と歌った連中もいた。でもさ、たとえば森永ヒ素ミルクの被害者が「森永に入ろう」なんて歌えないでしょう。傷ついてる人の気持ちを逆撫でるような歌は歌ってほしくない。それから脱原発運動をやってるお母さんとイラストレーターが作った『みえないばくだん』というインターネットで話題になった絵本がある。悪い人たちが原発を作って、賢い人たちの警告を聞かずにやり通したためにこんなことになってしまったという、自分を賢い人の側に置いた作り話。それを見て疑問に思ったので作者のブログに抗議文を書いたんだ。名前を明かして自己紹介して、こう考えるけどどう思いますかって。翌日ブログごとなくなっちゃった。驚いたよ。TV番組も含めていろいろ見たけど、ぼくの気持ちにぴったりくるものはないし、ぼく自身もどう描いたらいいかわからない状態が1年半くらい続いた。考えてみたら『あしたは月よう日』も1995年に大震災があって、2年後に出してる。編集のHさんは神戸に住んでて震災の被害を受けた。神戸から大阪に出勤する日々の中、自分たちの気持ちに寄り添った文芸作品も報道もなかった。それでぼくに依頼してくれてできた作品だよ。でも、3.11を描いてくれという依頼はなかった。実際、書店の児童書コーナーにもこれはという本はないね。

 気持ちは焦っても描けない。ところが去年の9月10日、導かれるように突然テキストが書けたんだよ! 自分で考えたというより、書かされた感じ。タイトルを『泳ぐ人と逃げる人』とつけて、ポプラ社のMさんに送ってみた。Mさんは子どもたちを放射能から守る運動を熱心にやっていたから、共感してくれるだろうと思って。そしたら考えさせてくれと言ったあと、間を置いて「出せない」。彼女はメールで今、福島で起きてる不幸を並べ立てて「だから福島に必要なのは笑いだ」と言う。でも彼女は『れおくん〜』を出さなかったんだぜ。今頃になって笑える絵本を描けなんておかしいよ。そうこうしてるうちにもうひとつ書けたテキストと、80年代に書いた「再会」という物語のサムネール画像も見せたけどダメ。次に相談した理論社のKさんもダメだった。『れおくん〜』のあと、原発についての材料ないですかと聞かれたことがあったんで期待したけど……新生理論社はTV局の傘下だから、そのせいかもな。結局去年は出版の目処がつかなかった。

 年が明けて年賀状が届いた。毎年いろんな出版社から来るけど、たいてい見るだけ。でも解放出版社の綱美恵さんにだけ初めて一言だけ「絵本出しませんか」と返事を書いて出したんだ。なぜかわからないんだけど。

 正月明け、3月1日から姫路文学館で始まる「1.17と3.11 絵本作家長谷川集平からのメッセージ」展にダミーだけでも展示しようと、出版の当てがないまま描き始めた。原画展のテーマそのものの作品だから、本が出てたらよかったのにね。まずはテキストの書き直し。うまいことひらがなで書けたんで、子どもの本としてバッチリ。1月8日、ダミーを描き終えて一息ついてパソコン見たら綱さんからメールが来てた。「年賀状に書いてあった絵本ってどういうものですか?」そのダミーを今、描きあげたんだよ! 返事を書くと、ぜひ見たいというので、あわてて製本して9日に速達で送った。翌日から綱さんは休みだと聞いてたので返事は週明けだろう思ってたら、ダミーをどうしても見たくて会社に出てきました、と、すぐにメールで連絡があって「鳥肌が立ちました。これはぜひ出したい。版型はB5にしましょう。近々会議を通しますから」。その通り会議を通してくれて、出版決定の連絡が15日にあったんだ。さあ描けるぞ!……つづく

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1月8日に描き上げたダミー。表紙・見返し・本文まで、ほぼこの時点でできあがっている。


ダミーとサムネイルを見ながら原画を描く。まずは鉛筆で下描き。水性顔料ペンで線を描く。そしえ鉛筆の線を消す。


それからサクラマット水彩で色を塗る。顔料ペンは水で滲まないのでガンガン塗っていく。パレットに置いた色は10色。


その画面の前の絵を見て展開を確かめながら色を塗る。この絵本の場合は三部構成なので、まとまったシーンごとにバランスをとっていく。


2月5日、表紙を描いて原画完成。


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